献皇后曰く「賢人は些細な善行を見て小さなことだとは言わず、懸命に努力した行ないだと見ます。もし小さな悪事があれば、それを取るに足らないこととは言わず、畏まって改めなくてはいけません」と。
羊皇后曰く「憂い事と楽しい事は実行するのに難しい。努力を怠ってはいけません。もし憂い事があっても悲哀を感じない者は仁徳を損なうし、楽しい事がありながら悦べない者は調和を乱します」
献皇后曰く「財宝や賄貨は皆、虜囚です。財産があると享受するのを免れることはできず、享受すれば吝嗇の心が生まれます」
昔、まさに嫁ぎにゆく娘がいた。その娘の父
〔1〕が戒めて言う。『慎んで善き名声を上げてはならない』と。
娘が言う。
『では悪い事をしてよいのですか』と。
父が言う。『善き名声さえ上げてはならないのに、どうして悪いことなどできようか』と。
后がこの話を聞き、こう言った。
「これは良い教訓です。鳥は捕捉網を嫌い、人は己に勝つことを嫌う。どうして(この話が)虚言だと言えましょうか」
【敦煌写本類書 『励忠節鈔』37貞烈部】