建安年間（196年〜220年）、趙昂は参軍事に転任し、冀に移住した。
そのとき馬超が冀城に攻撃をかけてきた。王異は自ら弓を射るための布の籠手を身に着け、趙昂を助けて守備した。
また身に着けていた環や刺繡の入った服などを外し、兵士の恩賞にあてた。

馬超の攻撃は激しく、城内は飢えに苦しんだ。（涼州）刺史韋康はもともと慈悲深く、官吏や人民が傷つくのを哀れみ、馬超と講和しようとした。
趙昂は（韋康を）諌めたが聞き入れられず、帰宅して王異に事情を説明した。すると王異はこう言った。
「君主には諌める臣下があり、大夫には専断が認められます。専断をしてはいけないということはありません。
救援の兵が関隴に来ていないと、どうしてわかることができましょう。（きっと来るはずです）
士卒たちを励まし戦功をおさめ、節義を全うして死ぬべきです。（降伏を）聞き入れてはなりません」
趙昂が引き返すと、韋康はすでに馬超と講和していた。

馬超は約束を破って韋康を殺し、趙昂を脅して嫡男の趙月を人質として南鄭に差し出させた。
（馬超は）趙昂を自分のために用いたいと思っていたが、まだ信用できなかった。
馬超の妻の楊氏は（以前から）王異の節義ある行いを聞き及んでいたので、（王異を）一日会見に招いた。
王異は計略をもって馬超に趙昂を信頼させようと思い、楊氏に言った。
「昔、管仲は斉に入って九州合併の功績を挙げ、由余は秦に行き穆公の霸業を成功させました。
今、社稷は安定したばかりで、治まるも乱れるも人材を得ることにかかっています。
涼州の士馬こそが中原と矛先を争うことができるのです。熟慮しなくてはいけませんよ。」
楊氏はこの言葉に深く感激し、自分に忠義を尽くすものと思い、ついに王異との交わりを深めた。趙昂が馬超の信頼を得て、功績をあげ災禍を免れられたのは、全く王異の力量のおかげである。

趙昂は楊阜らとともに馬超討伐の計画に及んだとき、王異に告げた。「我々の計画はこの通りだ、事は万全を期すものだが、趙月はどうしようか？」と訊ねた。王異は声を荒げて答えた。
「忠義を我が身に打ち立て、君父の多大な恥辱を雪ぐのに、（自分の）首が飛んでも大したことではありません。
まして一人の子どもがなんだと言うのです？そもそも項託、顔淵は百歳まで生きたでしょうか。義を貴ぶだけです。」
趙昂は「よし」と言って、ついに（楊阜らと）共に城門を閉じて馬超を追い出した。馬超は漢中へ逃れ、張魯から兵を借りて引き返してきた。
王異はまた趙昂とともに祁山に立て篭もって守備し、馬超に包囲された。三十日経つと（夏侯淵の）援軍が到着し、（包囲から）解放された。馬超はとうとう王異の息子の趙月を殺した。

およそ冀城の有事から祁山に至るまで、趙昂は九つの奇計を出したが、王異はすべて（の計略）に関わっていた。